レポートReport Sereis

新型コロナウィルスが家電の生産・物流・消費に与えた影響−2

〜国内の家電生産等の動向と中国からの家電物流の現状〜

流通経済大学ロジスティクス・イノベーション推進センター
研究員
鈴木 道範

1.国内の家電生産等の動向

国内の家電(主要4品目)の生産等の動向について、新型コロナウィルスの影響を把握するために、経済産業省生産動態統計月報で2019年10月〜2020年7月までの期間でみる。同統計では、「生産」の他、「受入1」、「出荷」、「在庫」も把握しており、「生産」+「受入」(供給)を「出荷」(需要)に振り向け、差分を「在庫」(保管)としているものと解釈できる。その前提で、生産等の動向を台数ベースでみると、電気冷蔵庫と電気洗濯機については、2019年は年末の需要増加に対して供給不足となり、2020年に入ると2月と3月も需要に対して供給不足が発生した。

需要構造との関係で見ると、2019年は10月に消費税増税があったものの、賞与支給を見越した年末の販売促進活動等により需要が増加したものとみられる。2020年に入ると3月は年度末の販売促進活動に向けて需要が増加したものの2月と3月は供給不足となっている。2月は、供給量が国内生産、海外からの受入とも新型コロナウィルスの影響を受けて減少した可能性がある。4月に入ると7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発出され、その後、4月16日に対象地域を全国に拡大したこともあり、電気冷蔵庫は需要が2月並に落ち込んだものの、6月には回復している。

 

同様に、薄型テレビとエアコンについてみると、薄型テレビは、2019年は年末に需要増加に対して供給不足が発生し、2020年に入ると3月に需要に対して供給不足が発生した。その後、6月には需要が伸び供給不足となっている。エアコンは、2019年は年末に向けての需要増加に対して、海外からの受入を拡大したことにより供給できている。2020年に入ると2月は需要に対して供給不足が発生しているが、新型コロナウィルスの影響により海外からの受入が大きく減少したのが大きな要因と考えられる。その後は、5月、6月、7月と夏に向けて需要が大きく増加し、6月には供給不足となっている。

需要構造との関係でみると、電気冷蔵庫と電気洗濯機は、年末や年度末の販売促進活動による増加がみられる。しかし、緊急事態宣言が発出された4月には薄型テレビ、エアコンとも需要が大きく減少している。

家電物流担当者によると、今年は梅雨入り前から気温が上昇し、夏物家電、特にエアコンの需要が例年よりも早く増加していると言う。また、需要の急増に対して国内生産で賄えない場合は、海外からの受入を増やすことになるが、中国に海外生産拠点がある場合、新型コロナウィルスの早期鎮静化により、需要に対応した受入ができても、東南アジアに生産拠点がある場合、それができるかどうかは不透明だと言う。


次に、新型コロナウィルスの影響をみるために、生産金額について過去の同時期と比較してみると2019年10月〜2020年7月の期間は、電気冷蔵庫と電気洗濯機は、1月から2月にかけて大きく減少し、3月には大きく増加しているのが特徴的である。2月は、国内で感染経路が不明な新型コロナウイルス感染が確認されたほか、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」やイベントの開催などをめぐり多くの報道があったため、生産にも影響を及ぼした可能性がある。薄型テレビは、他の家電に比べて海外生産が進み、需要に対する不足分は海外からの輸入で調整していることから、最低の生産金額となっている。エアコンは、1月から2月にかけて大きな減少が見られ、電気冷蔵庫及び電気洗濯機と同様に新型コロナウィルスが生産にも影響した可能性があるものの、前述のとおり5月、6月と夏に向けて需要が大きく増加し、生産額が増加傾向にある。

 

 

さらに、需要に対する供給(生産、受入)構造をみるために、家電各社の海外も含めた生産戦略をみると、家電各社は、事業ごとにグローバル生産体制を構築し、市場の変化(需要の量と質)に対応するために開発・生産・販売戦略を変化させてきており、国内生産はそのグローバル戦略の中で位置づけられている。実際に、既存資料により冷蔵庫、洗濯機、エアコン、薄型テレビについて市場シェア上位の各社の戦略をみると、パナソニックは、アジア地域の家電事業を統括する本社機能を東南アジアに置き、現地向け商品の企画、開発を強化し、国内においてはアプライアンス社がエアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビを生産している。シャープは、2016年8月、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、国内唯一の白物家電の生産拠点八尾事業所での生産を停止し、IoT家電のR&D拠点となっているなど、各社の生産戦略は異なっている。

全体としては、白物家電の国内市場は2兆円超2と規模は大きいものの飽和状態にあり、今後、大きな成長は期待できない。そのため、東南アジアや中東など、新興国市場での販売拡大が不可欠になっており、現地での企画・開発・生産が加速していくものとみられる。一方、日本国内のテレビは、ピークの2010年で2,519万台あった出荷台数が19年は486万台3と5分の1となるなど、世界的な値下がりで日本勢は厳しい戦いが続いている。

家電各社の生産戦略等
社名 国内市場シェア注1) 生産戦略 国内生産拠点注2)
パナソニック 冷蔵庫22.2%
洗濯機28.8%
ルームエアコン22.4%
アジア地域の家電事業を統括する本社機能を東南アジアに置き、現地向け商品の企画、開発を強化。テレビ事業は、中国から撤退。 アプライアンス社の主要拠点
エアコン:草津工場、群馬工場
冷蔵庫:草津工場、神戸工場、加東工場
洗濯機:草津工場、八日市工場、静岡工場
テレビ:草津工場、宇都宮工場、山形工場
シャープ注3) 冷蔵庫20.0%
洗濯機14.5%
中国・深圳に家電製品の研究開発センターを新設、掃除機など小型家電を販売。 国内唯一の白物家電の生産拠点八尾事業所での生産を停止し、IoT家電のR&D拠点に。
三菱電機 冷蔵庫16.8%
ルームエアコン12.6%
タイでの冷蔵庫開発を強化、アジアをはじめ海外モデルの開発を推進。 静岡製作所、京都製作所
日立グローバルライフ
ソリューションズ注4)
冷蔵庫16.6% 国内生産から低価格品は海外に生産委託する戦略に転換 栃木事業所、多賀事業所
東芝ライフ
スタイル
洗濯機15.3% 撤退していた中国市場に再参入する方針。海外売上高比率を20年に5割に高める。テレビは自社生産から撤退。 東芝ホームテクノ
加茂工場(キッチン家電、生活家電)
ダイキン工業 ルームエアコン18.1% 約150か国に事業展開し海外売上比率は約7割。あらゆるラインアップをそろえ、市場のすべてをターゲットに製品を生産。 滋賀製作所
ソニー 薄型テレビ(世界5位) テレビ事業、ビデオ及びサウンド事業を担う2社を統合。
注1)
日経BP社が提供している日本経済新聞記者の取材による独自データを多数収録している調査(201品目の最新シェアを調査)。冷蔵庫、洗濯機、ルームエアコンは2016年調査、薄型テレビは日本経済新聞社の2018年世界シェア調査。
注2)
国内生産拠点は、各社H P等より作成。
注3)
シャープは、2016年8月、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収された。
注4)
日立は、製造子会社の日立アプライアンスと同販社の日立コンシューマ・マーケティングを19年4月に統合、日立グローバルライフソリューションズが発足している。
2.中国からの家電物流の現状

日系物流事業者の中国進出の契機は、多くの場合、日系荷主を対象とするヒシネス機会をとらえたもので、対日本の輸出入フォワーディンク業務が主たる業務内容であった。その後、中国国内のマーケット拡大に従い、荷主である日系メーカーの関心は、従来の輸出に加えて、中国国内市場が対象となり、日系物流事業者へのニーズについても、中国国内における「高付加価値」物流が加わった。

日系物流企業の中国拠点は、日本企業の中国進出とともに、現地企業との合弁等により設立され、各地に支店を設けるとともに、複数の現地企業と合弁会社を設立している。

主な日系物流企業が設立した現地企業
企業名 日本通運 ヤマトホールディングス SGホールディングス 日立物流
主な現地企業 日通国際物流(中国)有限公司(上海本社、深セン、珠海、上海、厦門、重慶)
1995年設立
雅瑪多運輸(中国)有限公司(本部、上海、杭州、蘇州、青島、煙台、北京、天津、大連、広州、珠海、汕頭、廈門、深セン、成都、武漢)
2005年1月設立
保利佐川物流(中国)有限公司(深セン本社、広州、青島、北京、天津、大連)
2003年7月設立
日立物流(中国)有限公司
(上海本社、香港、上海浦東、天津)
1993年12月設立
備考
(関連企業)
香港日本通運株式会社、日通汽車物流(中国)有限公司、日通儲運(深セン)有限公司、蘇州日通国際物流有限公司、大連日通外運物流有限公司、上海通運国際物流有限公司 深圳日禾国際貨運有限公司、広州万特可国際貨運代理有限公司、花櫻物流(上海)有限公司、台灣日立物流股份有限公司
資料)
各社企業HP情報等により作成。

 

2016年度に国土交通省が株式会社野村総合研究所に委託して実施した「荷主業界ごとに商習慣・商慣行や物流効率化の取組状況の調査報告書 〜家電編〜」によれば、中国からの家電物流の流れは、中国の工場で生産された商品は中国国内の物流センターで保管され、日本からの発注によりその物流センターから税関管理の保管場所を経て、日本に向けて航空貨物か海上コンテナで輸出される。中国から輸出された商品は、日本の空港あるいは港湾を経由して通関業務を済ませた商品は日本国内の物流センターや販売拠点に運ばれる。

輸入後の物流については、家電製品の場合、下図に示すようにプレイヤーとしては、メーカー、量販店が存在し、各プレイヤー間の物流をトラック運送事業者が、また、物流センター運営等を利用運送事業者が引き受けている。

物流センターは、メーカーは自社系列の利用運送事業者、量販店の場合は3PLにそれぞれ部分または全部委託を行うのが一般的である。企業が保有するセンターには大きく2つのパターンがあり、一つは在庫型のセンターで、通称DC(Distribution Center)と呼ばれるものである。一方通過型のセンターはTC(Transfer Center)と呼ばれており、在庫を保有する倉庫としての機能は限定的で、仕分けをするための拠点として活用されている。

 

家電製品の物流は、総合物流企業や家電系物流子会社、倉庫業などが手がけている。いくつかの事例を各社のHP情報から紹介すると、総合物流企業では、2020年1月に日通・パナソニックロジスティクスから社名変更した日通・NPロジスティクスが、家電量販法人、カメラ系量販法人、地域電器店、代理店、チェーンストア、ホームセンター、百貨店等を対象とした家電ロジスティクスサービスを実施している。同サービスは、全国主要7拠点を中心とした顧客の最適拠点からの全国対応、家電各販売ルートに対応する最適配送ネットワーク、各量販/通販法人の納入条件に100%対応、海外工場からのアウトイン貨物マネジメントも柔軟に対応といった特徴を有している。

日通・NPロジスティクスの家電配送ネットワーク

資料)日通・NPロジスティクスHP

家電系物流子会社では、東芝ロジスティクス4が、家電メーカーや量販店に対して、「家電プラットフォーム」のソリューションを提供し、製販一体型の倉庫運営、海外から国内の地方拠点や量販店センター倉庫までのコンテナ直送などを実施し、物流コスト削減を実現している。同社の拠点は、各拠点の稼働率や日本各地へのアクセスなどを勘案し、関東(神奈川県川崎市)と関西(大阪府大阪市)の本州2ヵ所と北海道(恵庭市)の3拠点に集約されている。

東芝ロジスティクスの家電プラットフォーム

資料)東芝ロジスティクスHP

倉庫業では、三井倉庫グループが、家電物流の「共同プラットフォーム化」を全国で展開し、全国家電量販物流センターの総取扱貨物量のうち、通過金額ベースで約3割を同社物流センターで運営している。この取り組みにより、異なる製品配送システムを一元化し、配送拠点の集約化を実現したことで、40% のCO2 排出量の削減に成功している。

三井倉庫グループの製配販連携ロジスティクス・プラットフォーム

資料)三井倉庫グループHP

  • 参考文献
  • 一般社団法人日本電気工業会「民生用電気機器 国内出荷実績」
  • 一般社団法人電子情報技術産業協会「電子工業生産実績」
  • 一般社団法人日本冷凍空調工業会「家庭用エアコン(ルームエアコン)国内出荷実績」
  • 株式会社野村総合研究所『荷主業界ごとに商習慣・商慣行や物流効率化の取組状況の調査報告書 〜家電編〜』(2017年3月)
  • 1 受入は、他企業から購入したもの、同一企業内の他工場から受け入れたもの、輸入したもの、委託生産品及び委託加工品を委託先の工場(下請工場を含む。)から受け入れたもの、返品(戻入れ)されたもの。
  • 2 一般社団法人日本電気工業会によると、2019年度の国内出荷額は2兆4,567億円。
  • 3 一般社団法人電子情報技術産業協会「民生用電子機器国内出荷統計」。
  • 4 SBSホールディングス株式会社(SBSHDと株式会社東芝は、東芝が、東芝グループの物流事業を担う東芝ロジスティクス株式会社株式の66.6%をSBSHDへ譲渡することに合意し、2020年5月26日、株式譲渡契約を締結し、今後、必要な手続きを経て、10月の譲渡完了を目指すことになっている。
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