レポートReport Sereis

新型コロナウィルスが家電の生産・物流・消費に与えた影響−1

〜中国における家電生産の経緯と中国からの家電輸入の動向〜

流通経済大学ロジスティクス・イノベーション推進センター
研究員
鈴木 道範

2019年12月、中国武漢市で新型コロナウィルス患者が発生したのを機に、2020年6月16日朝現在、新型コロナウィルスの累計感染者は187カ国・地域で794万人を超えた。死者数は43万人を上回る1。現在でも、世界第2位の感染国となったブラジルをはじめ、ペルー、チリ―など南米諸国の感染爆発が勢いを増している。

我が国においても、6月15日正午時点で感染者数が17,502人、死亡者数が925人となる2など、 社会経済に甚大な影響を及ぼしている。産業面でも、観光・宿泊、外食、百貨店、自動車、旅客サービスなど多くの業界に影響が及び、物流分野でも国際的なサプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。

本稿では、中国を中心とした海外生産比率が高く、生活に密接に関係する民生用家電3(主要4品目)を対象に、最新統計を用いて、新型コロナウィルスが生産・物流・消費に与えた影響について紹介する。

1.中国における家電生産の経緯

中国では、1978年に改革開放路線が打ち出されるとともに、従来の重工業優先の発展戦略が見直され、国民生活の向上に貢献できる消費財の生産が重視されるようになった。最初は衣服、食品、自転車など軽工業の生産が中心を占めたが、所得増加による購買力向上に伴い、テレビなどの家電製品も国産化が視野に入れられた。

当初は各社の生産規模は小さく、品質も劣悪であったこともあり、需要拡大に生産が追いつかず、家電製品の輸入か急増した。中国政府は家電製品など各種耐久消費財の輸入代替化を国家的課題と位置づけ、海外からの技術・設備導入と、基幹部品分野における外国投資の誘致を図った。

その結果、カラーテレビ、エアコン、冷蔵庫などで、80年代後半から90年代初頭にかけて、 国産化比率が上昇したことにより、輸入代替化が達成され、家電製品の市場は順次開放された。 日系家電メーカーの中国への進出については、80年代前半に外資政策の転換による外国企業への門戸開放により対中投資が始まった。しかし、当時は進出の件数も少なく、小規模なものがほとんどで、製品分野で言えば、テレビなど AV 家電が中心であった。80年代後半に入ると経済環境も変化し、日系家電メーカーの中国への本格的な進出が始まり、投資額の増加と製品の多様化を伴う拡大時期を迎えた。その後、90年代に入ると東南アジアからのシフトや日本の経済環境の 変化による直接投資が回復し、90 年代末からはさらなる拡大期となり製品分野ではエアコン事業の進出が多く見られるようになった。

海外事業活動基本調査によると、中国での日本企業の現地法人企業数は、平成15年度(2003年度)の7,900がピークで、平成17年度(2005 年度)は7,463と減少したものの、世界の約3割を占めている。総合電気メーカーでは、日立製作所、パナソニック、三菱電機、東芝、シャープなどの生産拠点が進出した。

一方、エアコンや冷蔵庫市場での中国の出荷台数は日本の10倍以上で、エアコンは世界市場の80%以上が中国製品である。中国の大手メーカーは国内外の優れた企業を次々と買収し、技術力も極めて高い。中国躍進の筆頭はハイアールで、創業35年ながら、日本のAQUA(旧・三洋電機)やアメリカのGEを買収するなど急成長し、大型白物家電の世界シェアは10年連続1位となっている。また、Amazonと連携したIoT冷蔵庫を開発するなど、先進的な製品の開発にも精力的である。さらに、東芝の白物家電部門を買収したマイディアやハイセンスも世界有数の白物家電メーカーである。現在、各社とも日本向けには「デザイン性の良い高コスパモデル」に注力しており、今後は中国国内で日本製 IoT家電が普及する前に中国の最先端IoT家電を投入していく予定である。

中国家電大社6社の事業概要4
社名・所属地・創業年 事業概要
美的(Midea)
広東省・佛山市 1968年創業
大型空調、生活家電に強み。国内15生産基地、海外はベトナム、ベラルーシ、エジプト、ブラジル、アルゼンチンに生産基地、世界200の国と地域に 販売。2016年、東芝の白物家電、ドイツのロボットメーカー「クーカ」を買収。日本法人は日本美的。
ハイアール(Haier)
山東省・青島市 1984年創業
洗濯機、冷蔵庫は世界トップ。2011年、かねてから関係の深かった三洋電機の白物家電事業を買収。日本法人はハイアールジャパンホールディングス、 輸入と販売はハイアールジャパンセールス。
格力(GREE)
広東省・珠海市 1985年創業
エアコンに強み。パキスタンとブラジルに生産拠点。ダイキンと合弁工場を運営するなど日本企業と親密。日本法人なし。
TCL
広東省・惠州 1981年創業
カラーテレビに強み。グループ4社が上場。2014年旧三洋電機のメキシコのテレビ工場を買収。また日本ではアルカテルブランドのスマホを販売。160の国と地域に販売。日本法人はTCLジャパンエレクトロニクス。
長虹(Changhong)
四川省・綿陽 1958年創業
元は軍事用レーダーの生産企業、カラーテレビ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫 など生活家電に強み。米州、欧州、オーストラリア、東南アジア4つの販売子会社、10カ国にビジネスセンター。2015年旧三洋電機の中国液晶工場を買収。109の国家と地域に販売。日本法人なし。
海信(Hisense)
山東省・青島 1969年創業
カラーテレビに強み。Hisennse、Kelon、 Ronshenの3ブランド、世界130の国と地域に販売。日本法人は、ハイセンスジャパン。
2.中国からの家電輸入の動向

貿易統計により、中国からの家電輸入の月別動向をみると、家電を含む電気機器は金額ベースで全体の3割程度を占めているが、2020年2月には大きく輸入額を減らしている。

電気機器のうち、家電(主要4品目)に該当する品目でも、2019年10月から2020年1月までは、輸入額が拡大してきたものの、2月には1月の5割以下まで減少している。これは、中国における新型コロナウィルスによる減産の影響と考えられる。

さらに、2月の輸入の落ち込みについて過去の同時期と比較してみると、いずれの品目とも輸入額が減少しているなかで、特に、冷凍冷蔵庫と洗濯機の落ち込みが顕著に表れている。

また、中国の各省市の発表及び現地メディアの発表情報をもとにジェトロが作成し、2月4日に発表した情報によると、中国国内の企業の操業再開時期は、武漢市のある湖北省が2月14日午前0時以降の他、多くの省で2月10日午前0時以降とされている。しかし、現地進出日系企業においては、移動を制限する措置などによる人員確保の問題、マスクや消毒液などの防疫物資の不足、通関業者や物流会社での人員確保などの問題による物流の混乱が課題となっていた5

しかし、3月の輸入額の実績をみると、各地方政府の支援策などにより、そうした課題は徐々に解決されてきているものとみられる。実際に、5月21日に発表された4月分の貿易統計(速報) によれば、中国からの総輸入額は、対前年同月比11.7%の伸びを示し、家電を含む電気機器でも同様の伸びを見せている。

ちなみに、5月の新聞情報6によると、新型コロナウイルスの影響で、海や空、陸の国際物流が停滞し、コンテナ船など海運は入港制限や船員不足で輸送能力が3割減るとの試算があると報じている。航空は減便下で医療資材の輸送を優先していることによる運賃の高騰、海上コンテナは船員の交代難による洋上輸送の目詰まりなどが指摘されており、経済の回復に時間を要することも相まって、中国からの輸入の回復は時間を要するものとみられる。

  • 参考文献
  • 天野 倫文『中国家電産業の発展と日本企業 ―日中家電企業の国際分業の展開―』(JBIC開発金融 研究所報)
  • 1 日本経済新聞社「新型コロナウイルス感染世界マップ」(2020年6月16日更新)
  • 2 厚生労働省「国内の現在の状況について」
  • 3 家電とは、電気を利用した家庭用電気機械器具(家電製品)のことで,テレビ,ラジオ,ステレオ,テープレコーダー,VTR などの民生用電子機器と,冷蔵庫,洗濯機,掃除機, エアコンなどの民生用電気機器とからなる。本稿では、家電リサイクル法対象の4品目(エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビ)とする。
  • 4 株式会社ZUUが運営する「ZUUonline」より(https://zuuonline.com/archives/170962)
  • 5 『ジェトロビジネス短信』(2020年2月7日)https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/02/25e5a465ff740584.html
  • 6 「物流、世界で停滞、海運・航空、能力3割減も。」『日本経済新聞』2020/05/12、朝刊、p.3
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