レポートReport Sereis
新型コロナウィルスが家電の生産・物流・消費に与えた影響-3
〜我が国における家電販売(消費)の動向と今後の見通し〜
流通経済大学ロジスティクス・イノベーション推進センター
研究員
鈴木 道範
1.我が国における家電販売(消費)の動向
商業動態統計の家電大型専門店商品別販売額1等で、2019年10月〜2020年7月の月別の推移をみると、冷蔵庫、洗濯機、エアコンを含む生活家電は、2019年12月に1,600億円であったものが、2010年1月には1,395億円、2月には1,328億円と減少し、3月には1,562億円とやや持ち直し、4月には減少したものの5月には1,771億円となっている。テレビを含むAV家電も同様の動きを見せており、大手家電量販店の業績(売上高)も概ね好調である。
量販店名 | 売り上げ等の状況 | 備考 |
---|---|---|
ヤマダ電機 | 売上高 1兆6115億円(0.7%増) 営業利益 383億円(37.5%増) 経常利益 460億円(24.9%増) |
テックランド、LABIといった業態の店舗を全国各地に 展開 2012年にベスト電器を買収 |
ビッグカメラ (2020年8月期) |
売上高 6211億円(7.3%減) 営業利益 79億円(55.7%減) 経常利益 99億円(50.8%減) |
2012年にコジマを買収 |
エディオン | 売上高 7335億円(2.1%増) 営業利益 122億円(31.2%減) 経常利益 133億円(29.2%減) |
5つの会社が1つになった会社(エイデン、デオデオ、ミドリ電化、100満ボルト、石丸電気) |
ケーズデンキ | 売上高 7082億円(2.8%増) 営業利益 329億円(0.8%増) 経常利益 370億円(3.9%減) |
アフターサービス満足度ランキングでは5年連続で1位を獲得中 |
ノジマ | 売上高 5239億円(2.1%増) 営業利益 225億円(17.5%増) 経常利益 242億円(15.1%増) |
関東圏を中心に店舗を展開 |
上新電機(ジョーシン) | 売上高 4156億円(2.9%増) 営業利益 89億円(18.3%減) 経常利益 89億円(19.1%減) |
アフターサービス満足度ランキングでは2位を獲得 (ネット通販部門では1位) |
- 資料)
- 各社企業HPより作成
これらの動きを過去の同時期と比較してみると、AV家電、生活家電ともほぼ同様の動きを見せているが、2020年5月以降は、ともに販売額が大きく増加しており、いわゆる「巣ごもり需要」が発生したことやインターネット通販の普及等によるものとみられる。また、2020年2月は、過去に比べてAV家電、生活家電とも落ち込みが小さくなっていることが注目される。
次に、家電販売の動向について家計消費状況調査を用いて2019年10月〜2020年7月の推移でみると、家電等の1世帯当たり1か月間の支出平均は、2019年は10月から12月まで増加し、2020年に入ると増減を繰り返し、5月には大きく増加している。4品目でもほぼ同様の動きを見せているが、エアコンの5月になっての急回復が特徴的である。また、参考までにインターネットを利用した1世帯当たり1か月間の支出をみると、家電等の支出とほぼ同様の動きをしている。
ちなみに、家電等のインターネットによる購入比率は、この期間、20〜22%程度で推移しているが、4月のみ30%程度となっており、緊急事態宣言が発出された影響の可能性がある。また、過去の同時期と比較してみると、2019年10月〜2020年7月は、過去5年間で最大となっている。
さらに、家計消費は消費マインドにも影響されることから、民間リサーチ会社が実施している「新型コロナウイルスが消費者心理に及ぼす影響(定点観測調査)」2の6月12日公表(第4回)結果をみると、例年、高まるゴールデンウィーク期間も、今年は緊急事態宣言の真っただ中であったこともあり、大きな上昇をみせず、5月25日には緊急事態宣言が全国で解除されたが、6月の第1週も前年に比べて下回っている。今後1か月の消費の増減を示す「消費マインド」をみると、国内で新型コロナの報道が頻出するようになった1月末より、前年を下回って推移するようになり、非常事態宣言が出された4月頭に急激に減少した。その後徐々に回復し、5月には前年と今年のスコアが逆転、5月後半からは前年よりも高い消費意欲を示しており、前述の家計消費調査の結果とも符号する。
- 注)
- 消費マインドとは、過去1カ月間と比較した、今後1カ月間の個人消費量について、「大幅に増える(100点)、やや増える(75点)、変わらない(50点)、やや減る(25点)、大幅に減る(0点)」と点数を与えたときの平均値。
- 出所)
- 「新型コロナウイルスが消費者心理に及ぼす影響(定点観測調査)」
2.新型コロナウィルスが家電の生産・物流・消費に与えた影響(まとめ)
本稿を含めて3回にわたり、既存統計等を活用して行ってきた家電の影響の結果をまとめると以下の通りである。
(生産に与えた影響)
2019年12月、中国武漢で発生した新型コロナウィルスは感染拡大を招き、1月23日には武漢市が都市封鎖され、その後も感染が中国全土、さらには世界に拡大した。そのため、家電各社が生産拠点を構える中国や東南アジアでは生産時間の短縮や停止といった影響を受け、家電(主要4品目)の2月の輸入額は前月の46%まで減少した。一方、国内生産については、国内で家電を生産している企業は少数であるが、2月に生産金額が大きく減少している。これは、国内で感染経路が不明な新型コロナウイルス感染が確認されたほか、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」やイベントの開催などをめぐり多くの報道があったため、生産にも影響を及ぼした可能性がある。
(物流に与えた影響)
中国から輸出された商品は通関業務を済ませ、国内の物流センターや販売拠点に運ばれる。物流は、プレイヤーとして、メーカー、量販店が存在し、各プレイヤー間の物流をトラック運送事業者が、また、物流センター運営等を利用運送事業者が引き受けている。このような中で、新型コロナウィルスの発生により、海外生産が滞り新型コロナウィルスの影響が見通せない状況になると、海外からの家電製品の輸送のためのコンテナ船の確保なども含めて物流の現場にかなりの混乱が生じたものと考えられる。一方、国内においては新型コロナウィルスの感染拡大に伴う移動制限や将来不安の増大により販売にも大きな影響を及ぼし、それが物流センターの運営にも影響を及ぼしたものとみられる。配送面では、非対面受け取りの「置き配」が増大した。
(消費に与えた影響)
我が国においては、厚生労働省が1月28日に日本人初の新型コロナウィルス患者が発生したと発表してから、患者数が増加し、4月7日は緊急事態宣言が発出され、感染拡大を防ぐための移動制限がなされるとともに、新たな生活様式が発表され、国民の消費活動にも大きな影響を及ぼした。しかし、家電製品のみをみると、外出を控える意識の徹底やテレワークによる在宅勤務の普及等により、家庭で過ごす時間が増加したことにより、いわゆる「巣ごもり需要」が発生したことやインターネット通販の普及等により、消費に与えた影響は小さいと言えよう。
3.今後の見通し
本稿では、家電に着目して、中国武漢における新型コロナウィルスの発生が生産・物流・消費に与えた影響についてみてきたが、中国では1月23日の武漢市封鎖を経て終息に向けて経済活動が徐々に再開され、5月21日に発表された4月分貿易統計(速報)によると、9ヶ月ぶりに総輸入額が増加に転じている。我が国においても5月25日には東京都も含めて緊急事態宣言が解除され、ようやく経済活動を再開する方向が見えてきたものの、7月に入って再び感染者数が増加しており、予断を許さない状況になっている。
こうした状況のなかで、我が国への影響で考えると、海外生産面では中国での感染者数は落ち着いている一方で、東南アジアでは増加している国もみられるが、全体としては海外からの輸入は回復に向かう可能性がある。国内においては、経済社会がコロナ前に戻るのは数年を要するという意見もあるなかで、テレワークによる在宅勤務やインターネット通販は、今後とも普及していくものとみられること等から、家電においては、消費も回復していくものとみられる。特に、家電にIoTやAIを活用した家電が開発・普及し、生活利便性が高まれば、新しい需要も取り込んだ増加も期待できよう。物流面では、新型コロナウィルスの発生を契機としたサプライチェーンの見直しやIoTやAIを活用した物流効率化などが急務となろう。
- 1 平成26年商業統計表業態別統計編(小売業)では、家電大型専門店でのAV機器、白物家電の年間販売額ベースは、それぞれ全商品の59.1%、67.6%を占めている。
- 2 マーケティングリサーチ会社、株式会社マクロミルが定点観測している。4回目は、ゴールデンウィークを含む2020年6月第1週までの傾向についての速報。データは、同社が2011年から毎週継続して定点観測している意識調査「Macromill Weekly Index」を使用。調査対象は、全国20~60代の男女1,000名、国勢調査の人口動態の比率(エリア、性別、年代)に基づき割付を行っている。